ガラスの向こうの職人

あらかじめ送ってもらっていたメールを頼りに店に辿り着くと、ガラス張りの厨房から彼女の姿が見えました。ぼくは、少し緊張しながらガラス窓へそろそろと向います。
一心にクリームを塗る彼女に、ガラスを人差し指でコツコツ叩きますが、その時に見えた彼女の顔があまりに満足そうにほころんでいたので一旦ノックを止めてその表情にみとれていました。
作業がおわり、ケーキが冷蔵庫に仕舞われたので早速声を掛けます。
少し挨拶を交わし、ぼくはケーキを買って、近くの夜空へ。
スポンジがとっても美味しい。
以前プレゼントしてもらったシフォンケーキを思い出します。
人を幸せにする人はいる。
ぼくたちが気付かないだけかもしれません。

小さな旅と、本堂

モヤモヤした数日間に休止符を打つべく旅を思いつき、何の計画もなしに新宿の夜行バスターミナルに
駈けて行ったのが昨夜。日曜日に予定が入っていたので、あまり遠方にも行けない。(本当は鹿児島に行きたかったです)でもぐっすり眠っているうちに何処か知らない土地に運ばれて、ただ歩いて帰るというささやかな旅がしたい。幸運にもキャンセルが・・・出るはずもなく、結局しょんぼり肩を落としながら家路に着いたのでした。


そして朝、公民館の小さな練習部屋で急に鎌倉へ行こう!と決めて、あと1時間も残っている利用時間をそっちのけにして、自転車で駅へ向いました。
駅に隣接しているパン屋でいくつかのパンを買い込み、揺られること1時間30分。
藤沢へ着いたら、大好きな江ノ島線に乗り込みます。この電車の床と椅子の肘掛は木製で出来ていて、ちんちん電車のごとく街中を横断したり、なんといっても海を眺めながら乗車する事が出来るのです。昼間の車内は電気が点いておらず、外の明るさが反射して中に居る僕たち乗客は一つの静かな灰色の影になれます。途中下車、大仏見学、未踏の小道を漂っている内に、それが海へと続いていたのでした。海では犬が沢山遊びに来ていて、そのうちの一匹と友人になりました。砂浜や波を裸足で楽しみ、帰るつもりが、あれよと江ノ島へ行く事に。



江の島大師の本堂へ。
考えなしに入ってみただけなのに、ここに来たかったのだと直感しました。
導かれるという感覚は、ぼくはあまり信じないけれど、まさにこの表現がしっくりときた。
妙な安心感に満たされながら本堂を回ります。
地下へ降りる階段の壁には目を見張るほどの作品。繁々と見つめます。
密集してひとつの意味となっているこの塊の個々の線がとても細い事に思い当たりました。
そして次の瞬間、背中がぞわっとして、なぜこんなに繊細に見えたのかがわかったのです。
それらは絵ではなく、刺繍だったのです。


いくつもの中国刺繍仏像画が海を眺めていました。
控えめに開いている窓を大胆に開けると、天井に整列して吊るされた提灯の、白いお札が急にその口を開いてペラペラと喋りだすので、少し恐ろしくなって慌てて窓を閉めたのでした。


ブラインド

最近知ったCaetano Velosoの歌を何度も聴いています。
時折垣間見られる彼の奇妙なオリジナルダンスは彼の魅力をいっそう際立たせています。

一週間分の洗濯を済ませて、買っておいたブラインドを窓に設置することにしました。
図を頼りに組み立て始める。
思いの他大変な作業・・・汗をかいたので窓を開ける。

数分後、愛猫が前の遊歩道を通行人のごとく通り過ぎる。
その数分後、
隣に住む親子も向こうからやって来て、小休憩。
3歳の少年と猫についてしばし話し込む。
貰ったどんぐりは拾ったばかりなので土の匂いがして気持ちがいい。
楽しい気持ちになり、また作業開始。

そうこうしている内にようやく設置し終え、早速紐を引いてみる。
スルスルスル・・・あっという間に窓が真っ白に。真新しさに息を呑む。

16時頃、肌寒くなってきたので窓を閉めようと窓辺に。
閉めようとして、窓を右に引いた時に気付いたのです。
ブラインドが引っかかって窓が閉められない!

ムセマス

雨に降られて帰宅。
この一週間はまともに読書していなかったし、
パソコンの前に何時間もいることが多くなって吐き気に襲われていました。
だから海を目の前にできるなら、きっと今頃は灰色の溜息を吐き出していることと思います。
いくら美味しい空気だとしても吸い込み過ぎるとむせます。ゴホ

海藻洗髪剤

どうも苦手だと思っていた洗った後のキシキシ感が今では心地良く感じます。
先日ルベルというナチュラルヘアソープを見つけました。
パッケージに描かれた海藻のイラストが気に入って買ってみたのですが、
色と香りの郷愁が・・・たまらなかったのです。
きっとこれはぼくと弟にしか理解できない種類の郷愁ですが、
見つけてしまった、という感じがしました。

工作の朝

今朝、起きると赤いたまごの置物が割れていました。
126円だったけど、とても気に入っていたのに、もうきっと何処にも売ってないんだ。
そう思ったら悔しくなって、ペン立てにある接着剤でどうにかできないかともがきます。
破片を集めて試みる。
この破片はどこに繋がっているのかしら、ああ、ここだ。ん?ここか?などと玄関に座り込みひとりで格闘していると、猫が背中を叩きました。
「ご飯はまだかい。」
あの、なんか言う事あるだろう。犯人はどっちだ!と睨みを効かせると、
叱られる気配を感じたのか、どちらとも耳を寝かせるのでどっちなのかはっきりせず
ムズムズする朝なのでした。

タイタンルーム

IKEAに出掛けて、真っ直ぐに寝転がれるサイズのソファを買いました。
きっと猫も大喜びです。

推薦により読んだタイタンの妖女は、薄桃色の、たったそれだけが延々と続いている惑星が
余韻となって随分とぼくの中に入り込んでいます。
そこを訪れてみたい、湖のほとりでただじっと日が暮れるのを待ってみたいと思うのでした。