老いること

マルタのやさしい刺繡を観ました。
パートナーに先立たれ落ち込んでいる老婆が、ひょんな事から自分の刺繡を施したランジェリーショップを持つ夢を思い出し、それを実現させる為に立ち上がるというお話。町の人や友人に恥を知れと罵られ、息子にさえお店を妨害されるも挫けないお婆さん。

老いるというのは、受け入れる器が大きく深くなっていくという素晴らしい部分と、諦観のうちにものを捉えてしまう部分とがあるように思えます。自分の夢を追いかけようと勇気を持つこのお婆さんを見ていると、人は本来こんなにパワフルな面を内包しているのだということに気付かされます。夢を叶えた人がひと握りとすれば、その力を内包したままの人はどれだけいるのだろう。それを全部かき集めたら何かが作れてしまうのだろうか。

老いに恐怖を覚える原因のひとつが、人間の内包されたパワーへの忘却であるならば、ぼくはこの映画を観てその恐怖が少し軽減されたように思う。ちょうど雨上がりの気持ちです。