カンフー

目覚めてまだ間に合う!と気付いた時には食パンをくわえて身支度に取り掛かっていました。15分で駅のホームに辿り着き、電車を1本逃したもののギリギリセーフで道場に到着。息切れと興奮のどちらとも判断出来ない浮いた体で階段を上ると、左の障子の間から白い光が見えたので、反射的にそちらを向くと彼がいたのでした。
朝の冷たい光に溶け込むように見えたのは彼の稽古着が白かったからでは勿論なく、彼はとてもいい何かを持っているからだと感じました。それは多分嫉妬すら出来ない程いいものです。それでいて多大な忍耐と努力は必要だけれど欲し続ければ必ず得られるのだ、自分次第なんだという妙な安心感を含んだ面白いものでした。

・・・そんなわけで音楽家であり、武道家のフランソワ・デュ・ボワさんとの出会いはとてもドラマチックなもので、もう今日一日は何があってもへっちゃらだ!などと思っていたのです。しかし気持ちは弾むも、不意打ちにあった(というのも、多忙な彼の代わりに別の先生がいると思っていたので)ことにひるみ、早速足の指が攣り、ふと足下に目をやると靴下に大きな穴が開いていました。緊張度が限界に達したぼくにデュ・ボワ先生は緊張をほぐそうと話しかけて下さいましたが、足元が気になってぼくはちっとも集中できず、悔しい思いをするのでした。