海亀

遠い海を渡って、届けられる手紙はこれで2通目。前回の便りからたっぷり時間が経って、彼女を待つぼくの首は、安否の不安などで伸びた麺のようになっていたのでした。日本に居る時は、旅先からよく絵葉書を届けてくれて、まるでお話を読んでいるようで、いつもわくわくしながら読んでいました。


たった一人で山に登り、慣れた手つきでテントを張り、そこに広がる大自然にうっとりしながら、鼻歌でも歌っているのが至福だと嬉しそうに話してくれる彼女。彼女とは、あまりに偶然過ぎる出遭いでした。その偶然にふたりが衝突するまでの間、事が起きても起きなくても、彼女に会えなかったということが、ひやりとします。あともう少しでアウトだったかも!


さて、便りによれば今回は、浜辺の真横にある部屋を借りて、そこで環境学の膨大な課題と向き合いながら、相変わらず自然の豊かさに触れているそうです。”2週間前、野生の海亀が産卵した卵が孵って、チビガメが浜辺を横切っていたよ。9〜10月には南極へ向う鯨の群れがこの浜辺の近くを通るみたい!”


チビガメたちは、孵化して自分の力で海に戻る時、相当な体力を消耗するそうで、見つけた中にも、ぐったりしている子がいたそうです。見かねた彼女は、手の中でチビガメを暖めてやり、だんだん元気を取り戻した彼らは、最後にはその手から出たくて仕方がないほど手足ばたつかせ、うれしくて海に返ししたそうです。甲羅がまだ柔らかであったにも関わらず、形は亀そのもので本当に美しかったと書いてありました。