魔法の絨毯

この地球上の何処かに魔法の部屋を持った黒人の少年がいる、という夢を随分前に見ました。


その部屋はいわばどこでもドア的役割を果たす部屋で、その部屋にたまたま訪ねた者は、望む場所へどんな所にでも行く事が出来ます。但し、訪ねられるのは生涯で一度だけ。しかも、その部屋は少年と共に常に移動しているので、遭遇出来る確立は無に等しい。


部屋は、広くなく、4畳半くらいの狭いものです。その中央で彼は、エキゾチックなペルシャ模様の魔法の絨毯に乗り、ふわふわと浮遊しながら、テレビゲームやスナック菓子を食べて、突然の訪問者を待っているのです。


そんなわけで夢とは言え、幸運なぼくはその部屋を訪ねました。訪ねたというより、何個もあるドアノブからたまたま選んで、回したドアノブがそれだったのです。少年はとても無口で、しかも黒人なので日本語が通じるかどうか不安でしたが、暫くするとぼそぼそと日本語を喋り始めました。(あとで、彼に聞いたら、どんな客が訪ねて来ても対処出来るように、あらゆる言語を学んだそうです。)


「この絨毯の上に乗り、望む場所、風景(あるいはこの地球上には存在しない場所でもいいけれど)頭に強く思い描くと、この部屋全体がその風景になる。ようするにこの部屋は君の頭をリアルに映す事が出来る映写機のようなものなんだ。但し、この絨毯から降りてはいけない。降りてしまうと時間の隙間に入り込んで、もう戻ってくることが出来なくなるんだ。でも、その風景に触ったり、あるいはその一部を持って帰ってくる事はできるよ。」


「どういうこと?」


「だからさ、例えばね、深い森に行くとするね。君は、樹木を揺らす風の匂いを嗅いだり、頬に触った葉をこちらに持ってきてもいいんだ。だって人間の想像力は溢れすぎて困るくらいのものだもの。少し位減ったって構わないんだ。どうだいやってみるかい?」


「一箇所だけだよね?」


「ううん、君が起きちゃうまでは何度でも念じた場所に行ける。あるいは一箇所に何時間でも居ていいんだ。」


なんとなく状況が把握できたので、試してみることにしました。魔法の絨毯はシルクのように柔らかで乗るのに一苦労しましたが、ひとたび乗ってみるとなかなかの心地。家にも一枚欲しいなぁと思いました。


さて、何処に行こうか?と考えいたら、耳の奥でむずむずして、それが音だと気付いたときの悔しかったことといったらありませんでした。ダメもとで、目覚ましを止めに一瞬こちらに帰り、またすぐに戻ったのですが、絨毯はみるみる間に色褪せ、ほつれていき、少年の顔ものっぺらぼうになり、あっさり終わってしまいました。あまりの悔しさに何度もその夢を思い出してしまいます。


今夜、不思議な部屋は誰の夢に現れているのでしょうか?