数ミリ

弟の結婚パーティーに大遅刻をして、それが原因で弟と大喧嘩。
そして乗った電車で大泣きをした後、道すがらに見つけたファーストフードでココアとフライドポテトを買い、レッスンへと急ぎました。いつもより少し早目に着き、やる気を出したものの歌に雲行きの怪しさが露骨に出てしまい・・・そんな日だとしても、レッスンはいつも特別な出来事です。

先生はただ、ひたすらじっくり考えて、考えた末にほんの少し鉛筆の位置を変えます。まるでその数ミリの違いが世界を変えるかのように慎重にずらすのです。そしてぼくは、その答えをじっと待っている時の無音の数秒間がとても好きです。

彼女は、「ある意味で私は貴女ととても似ている部分があるから理解できると言って腰を下ろします。」

先生はきっと、自分のことを自分勝手だとか、そんなに愛情深くない人間だと思っているかもしれないけれど。ぼくは全然違うと思う帰りの電車で、やっぱり涙ぐむのでした。